成熟すると求められる価値が変わる。その変化に敏感になること

「「無駄」とは何なのか」より。id:u_1roh さんに激しく同意。

MacBook Air の開発者が何を考えているのかはわかりませんが、内部の作りよりも世の中に対するインパクトを優先していることに間違いはないでしょう。

質と製造コストを優先する日本の技術者とは、目指すところが違うのでしょう。もちろん、質と製造コストの追求が間違っているとは思いませんが、評価の軸はそれでけではないと思うので。

さて、今日は製品の「価値」について考えてみます。


ここでの「製品」は自動車、家電、PC、書籍、など一般の人が手に入るものに絞って考えてみます。

一般的に、ある種類の製品が世の中に登場するとき、その価値は製品の提供する「機能」に比重があります。

自動車ならば、「早く目的地に到達できること」が機能であり、携帯電話ならば「いつでもどこでも離れた人と通話できること」が機能です。また、書籍に代表される印刷物は、「ある情報を世の中の多くの人に等しく正確に伝えること」が機能です。

当初は「今まで実現できなかったこと」を実現できるので、機能自体に価値があるのです。

で、その製品自体が成熟してくると、どのメーカーでも機能は変わらなくなるため、マーケットは「機能」ではなく「質」に価値を求めるようになる。

自動車ならば、「快適さ」「燃費」「価格」が新たな価値になり、携帯電話なら「薄さ、軽さ」「使いやすさ」が新たな価値になります。面白いのは印刷物で、これも「情報」そのものよりもその情報の「新しさ」「わかりやすさ」「正確さ」といったところに価値が変化します。特に、インターネットの普及により媒体としての書籍の価値、「新しさ」という質は相対的に低くなってしまっています。書籍が提供すべき価値は、「わかりやすさ」や「情報の信憑性」「特定テーマにそって編集された情報」といったものにシフトしているのです。

ちょっと話がそれました。つまり、どんなものであってもその価値は「機能」から「質」へ変化していくわけで、その変化ポイントをいち早く察知できなければ、生き残れないのです。

これは、例を示して言われてみれば至極当たり前の事なのですが、実際にその潮流の中に身を置いて一番最初に気づくのはとても難しい。

Apple成功の理由

Appleは、それがうまいんでしょうね。iPodが成功したのも、携帯音楽プレイヤーの「機能」としての価値が飽和してきたところで新たな価値を提案したところ。MacBook Air が注目されているのも、ノートPCという分野に「圧倒的な薄さ」という新たな質を提案したからでしょう。

余談ですが、MacBook Air については、あまりPCを使わない還暦を迎えたうちの母さえも、「なんていうんだっけ、あの薄いやつ、あれはいいわねぇ」と言っていたくらいですから。還暦の母にさえも「ほしい」と思わせるApple、恐るべし。

ゲーム機業界の勝者

さらに面白いのは、日本のゲーム機業界でこの変化に敏感だったのは、任天堂でしょう。失敗したのはSONY

記憶に新しい、新型PSPの女子高生が「うすっ!」って驚くCM。今さら薄さを強調してもしょうがないでしょう、と思っていました。

対して巧妙なのは Wii のCM。いまさら「スーパーマリオギャラクシー」をやりたいとは思いませんが、あのCMでカップルが仲良くゲームしているのを見せつけられると、ついつい「欲しいなぁ」と思ってしまう

PS3があまりふるわないのも、PS3の提供する価値が「ゲーム機としての機能」の枠を超えられなかったから。

任天堂「より高度なゲームを提供する」という機能的価値よりも、「ゲームを通して家族、恋人など人間同士の絆を強める」という新しい価値を提案しているから売れていると思うのです。

受託開発の提供する価値

・・・と考えると、ソフトウェアに立ち戻って、受託開発とパッケージ開発の提供する価値の違いについて考えてみるのも面白いのです。

これについては長くなったのでまた次回。